NY演劇留学記105|「演技はアホみたいなこと」――忘れられない講師の言葉

7時起床。

朝早く学校へ行き、レビーと自主練。

1コマ目は、週に一度のピケのクラス。

まずはクリスとヘス。

クリスはこれまで、ライターをかっこよく着火するアクティビティを続けていた。

ところが今回は、

「もう上手になりすぎた。」

という理由で却下。彼、一所懸命練習してたのに・・

代わりに与えられた課題は、

バレエのピルエットを5回転。

……それは難しい。

シーン自体は、今日は今ひとつだった。

続いてベスとマット。

二人とも、

「相手に届いていない。」

という状態。

このシーンは、恋人同士の激しい口論だ。

そこでピケが、アインシュタインの言葉を引用した。

「無限なものは二つある。宇宙と人間の愚かさ。もっとも、宇宙については断言できないが。」

教室が少し笑う。

そして、ピケは続けた。

“Acting is a stupid thing.”

もちろん演技を馬鹿にしているわけではない。

理屈や常識を超え、自分をさらけ出すこと。

演技とは、そういう”愚かさ”を引き受ける営みなのだ。

そんなニュアンスだった。

さらにもう一つ。

アインシュタインの有名な言葉。

「想像力は知識よりも重要だ。知識には限界があるが、想像力は世界を包み込む。」

本当に、その通りだと思う。

ほかにアリスとハロルドもシーンを披露。

こちらはまずまずだった。

2コマ目はバレエ。

明日はダンスの授業がないので、今学期最後のバレエ。

もちろん最前列で踊った。

3コマ目はミュージック。

いつものボーカルウォームアップのあと、みんなでクリスマスソングを歌う。

僕だけ、日本語で歌った。

♪ 真っ赤なお鼻の~

4コマ目は、週に一度のクイントンのクラス。

キンバリとマコーレ。

二人のシーンは、

若い妻が医師との浮気を終えて帰宅するところから始まる。

かつて海軍士官として輝いていた夫は、今ではバス運転手。

保守的で退屈な男になってしまった。

当然、大げんかになる。

一回目。

とても良かった。

教室全体が、

「ここでクイントンは何を言うんだろう。」

と息をのむ。

その空気が好きだ。

クイントンはキンバリへ言った。

「そもそも、この状況で君はそんな反応をする女性には見えない。」

深い。

完成度は高い。

でも、それはまだキンバリ自身ではなかった。

さらに数点アドバイスを受けて、もう一度。

……すごかった。

マコーレの悔しさ。

キンバリの行き場のない苦しさ。

切なくて、僕は泣いてしまった。

クイントンも泣いていた。

続いてベスとマット。

この日二度目の挑戦だ。

クイントンはマットへ、

「君は父親みたいだ。」

と言う。

そして二人へ、こんな背景を与えた。

マットには、

「アメリカ南部に残る古い男尊女卑の価値観を持つ男。」

ベスには、

「コーラを2缶飲み、ピザを食べ、そのあとセックスをするだけの毎日。母親のように彼の世話ばかりしてきた。でも、もうそんな人生にはうんざりだ。自立した大人の女性になれ。」

もう一度シーンをやる。

ベスは本当にすごい。

“びっくりボール”のように、指摘を受けた瞬間、反応する。

少女だった彼女が、一瞬で一人の女性になった。

身長150センチほどのベスが、2メートルを超えるマットを子どものように扱う。

立場が完全に逆転した。

見事だった。

放課後はすぐ帰宅。

ビールを飲みながら歌と発音の練習。

もう気分は、ほとんど冬休みだ。

夕食後は映画**『ライフ・イズ・ビューティフル』**を観た。

後半は、何度観ても涙が止まらない。

父親が撃たれる場面は、本当に胸が苦しくなる。

さて、前半最後の一日。

思い切り楽しもう。

それでは、おやすみなさい。


追伸

ニューヨークの日本人向けフリーペーパー**『ジャピオン』**の新年巻頭特集で取材を受けることになった。

どんな記事になるのか、今から楽しみだ。

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